2023年12月29日
塔 2022年12月号
吾の血を三日吸ひたる蚊を叩く吾が掌に血は戻りきて
まだ知らぬ周五郎の女ゐて夏の休日ともに過ごしぬ
胡瓜ハム玉子を入れて蕎麦を食む夫の味覚を吾は怪しむ
足元にこつんこつんと音のして青き団栗秋を弾みぬ
百円の新色毛糸もとめけりあるだけ買ひて足るか足らぬか
冷房を効かせ編物始めけり冬は突然顔出すだらう
この頃はゆつたり着たき何もかもソックスさへもゴムの緩きを
まだ知らぬ周五郎の女ゐて夏の休日ともに過ごしぬ
胡瓜ハム玉子を入れて蕎麦を食む夫の味覚を吾は怪しむ
足元にこつんこつんと音のして青き団栗秋を弾みぬ
百円の新色毛糸もとめけりあるだけ買ひて足るか足らぬか
冷房を効かせ編物始めけり冬は突然顔出すだらう
この頃はゆつたり着たき何もかもソックスさへもゴムの緩きを
2023年12月29日
塔 2022年11月号
ミャンマーへ行く子止めたし一生の仕事ならばと言葉飲み込む
戻り行く子見送れば居間広くエアコンの音耳に際立つ
嵩高きビデオテープを捨てむとす時がゴミへと変へてしまひぬ
懐かしみこれ見る時はあるのかとアルバム前に暫し考ふ
誰か言ふ〝カリンバ沼〟にはまり込みカリンバ九台積み上げてゐる
戻り行く子見送れば居間広くエアコンの音耳に際立つ
嵩高きビデオテープを捨てむとす時がゴミへと変へてしまひぬ
懐かしみこれ見る時はあるのかとアルバム前に暫し考ふ
誰か言ふ〝カリンバ沼〟にはまり込みカリンバ九台積み上げてゐる
2023年12月29日
塔 2022年10月号
耐へかねて脳が悲鳴をあげてより受験は明日と心に期しぬ
あやしきはフラグを立てて次に行く黒色珈琲ぬるさを増して
終はつたぞ!声は出さずに叫びけり雁字搦めの縄が解けゆく
お疲れの脳に糖分送らむと水やうかんを褒美に食す
試験なき日常戻り首輪無き犬の気持ちをはつかに知りぬ
日本のソウルフードと言ひ切られラーメン食せぬ吾を哀しむ
水晶の微かな重み首にあり三年ぶりの昼食会に
あやしきはフラグを立てて次に行く黒色珈琲ぬるさを増して
終はつたぞ!声は出さずに叫びけり雁字搦めの縄が解けゆく
お疲れの脳に糖分送らむと水やうかんを褒美に食す
試験なき日常戻り首輪無き犬の気持ちをはつかに知りぬ
日本のソウルフードと言ひ切られラーメン食せぬ吾を哀しむ
水晶の微かな重み首にあり三年ぶりの昼食会に
2023年12月29日
塔 2022年9月号
拒めずにいつかは吾も消ゆるだらうこの世の何かを僅かに学びて
ウイグルの女性は言ひぬむざむざと制圧されしゆゑの今日
紫の万年筆を購ひぬ哀しきひとにまつはる色の
毎日を単位試験に追はれゐる余裕のなさをひとには言はず
好物のアイス最中を齧る時美空ひばりを決まつて思ふ
ウイグルの女性は言ひぬむざむざと制圧されしゆゑの今日
紫の万年筆を購ひぬ哀しきひとにまつはる色の
毎日を単位試験に追はれゐる余裕のなさをひとには言はず
好物のアイス最中を齧る時美空ひばりを決まつて思ふ
2023年12月29日
塔 2022年8月号
ゴリゴリと回して削るHB探求心を尖らすために
口中の飴の溶けゆく速さにて唾液の量を吾は知るなり
これはもう眠るしかない眠たさよ午前十時の椅子に座りて
血の気なき恐怖の顔の人々が眼裏に見ゆ寝むとせし時
就活とさびしき言葉聞こゆれど畳む気はなしここは吾が家
翌日の消印押さるる封筒はきつと不満を内蔵するらむ
口中の飴の溶けゆく速さにて唾液の量を吾は知るなり
これはもう眠るしかない眠たさよ午前十時の椅子に座りて
血の気なき恐怖の顔の人々が眼裏に見ゆ寝むとせし時
就活とさびしき言葉聞こゆれど畳む気はなしここは吾が家
翌日の消印押さるる封筒はきつと不満を内蔵するらむ
2023年12月29日
塔 2022年7月号
里山に桜蕾みて老若の三十三名今卒業す
コロナ禍に二年を過ごし卒業す前代未聞の在宅試験
眼鏡無く少し離して謝辞を読む吾は婆さん、婆さん学生
礼服に真面目顔なる所長より腕にずしりと学士記賜ふ
二枚目と言へど学士記軽からず吾の二年の証となりぬ
吾が内に絡まりたるがほどけゆくその一瞬が学ぶ楽しさ
コロナ禍に二年を過ごし卒業す前代未聞の在宅試験
眼鏡無く少し離して謝辞を読む吾は婆さん、婆さん学生
礼服に真面目顔なる所長より腕にずしりと学士記賜ふ
二枚目と言へど学士記軽からず吾の二年の証となりぬ
吾が内に絡まりたるがほどけゆくその一瞬が学ぶ楽しさ
2023年12月29日
塔 2022年6月号
忙しき時は一度に来たるもの歌を詠みつつ謝辞書きをりぬ
学校に通ふ機会を奪われしパンデミックの申し子吾等
答案のマークシートを郵送し追跡したき時もありしを
揺れてゐるカーテン越しに日を浴びぬ戦火の街は心に重く
おそらくは何の役にも立たぬだろそれでも学ぶウクライナ語ゆゑ
鶯がよろぼふやうに鳴きにけりキエフにロシア迫りゐる日に
学校に通ふ機会を奪われしパンデミックの申し子吾等
答案のマークシートを郵送し追跡したき時もありしを
揺れてゐるカーテン越しに日を浴びぬ戦火の街は心に重く
おそらくは何の役にも立たぬだろそれでも学ぶウクライナ語ゆゑ
鶯がよろぼふやうに鳴きにけりキエフにロシア迫りゐる日に
2023年12月29日
塔 2022年5月号
一瞬とはいへ巻き戻す術なくて右手吊りゐる錘のごとく
左手のダブルクリック無視されて三角巾より右手を出しぬ
そろそろと怪我人らしき動きには二日で飽きて胡瓜刻みぬ
二年分歳を取りたる写真添へ再入学の手続き終へぬ
この度は生物学を学ばむと科目選択作戦を練る
左手のダブルクリック無視されて三角巾より右手を出しぬ
そろそろと怪我人らしき動きには二日で飽きて胡瓜刻みぬ
二年分歳を取りたる写真添へ再入学の手続き終へぬ
この度は生物学を学ばむと科目選択作戦を練る
2023年12月29日
塔 2022年3月号
青引きて緑を引きて赤を引くまだ覚えざればピンクのマーカー
来年はWeb受験になるさうなカメラの監視は再来年より
眠たきはラジオの授業先生の声麗しき薔薇色の靄
勧められ学ぶ老年看護学老いは現実間近にをりぬ
玄関に玩具のごとき聖樹置くこれにて終はる我が家の聖夜
クリスマスプレゼント隠す苦労など息子は知らず老いてゆくのか
来年はWeb受験になるさうなカメラの監視は再来年より
眠たきはラジオの授業先生の声麗しき薔薇色の靄
勧められ学ぶ老年看護学老いは現実間近にをりぬ
玄関に玩具のごとき聖樹置くこれにて終はる我が家の聖夜
クリスマスプレゼント隠す苦労など息子は知らず老いてゆくのか

2023年12月29日
塔 2022年2月号
里山の冷気窓より入り来ぬ龍谷大学瀬田キャンパスは
二度(ふたたび)の学生生活コロナ禍に色を変へけりさびしき色に
仏教を学ぶ気なくて「道元」の講義聞きをり修行の如く
曹操と董卓現れ「資治通鑑」佳境に入るや劉備は何処に
むぎゆむぎゆと肩をつかみてほぐしけりなぜか疲るるZOOMの授業
二度(ふたたび)の学生生活コロナ禍に色を変へけりさびしき色に
仏教を学ぶ気なくて「道元」の講義聞きをり修行の如く
曹操と董卓現れ「資治通鑑」佳境に入るや劉備は何処に
むぎゆむぎゆと肩をつかみてほぐしけりなぜか疲るるZOOMの授業